家族の実話エピソード

梅の記憶~母から受け継がれてゆく味

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「梅ジュースを作りたい!」

と、息子が突然言い出した。

梅干しに始まり、梅ジャムや梅肉エキスなど、とにかく梅が大好きな息子。

6月になるとスーパーで梅が売り場に積み上げられているのが気になって仕方がなかったらしい。

「梅ジュースが飲みたい。作って」

と母である私にお願いしても、料理があまり好きではない私はなかなかその気にならず、

「そのうちにね」

で終わって、らちがあかない。

ボヤボヤしていると梅の時期が終わってしまうと危機感を感じた息子は、とうとう自分で作ると言い出した。

買ってきたのは、梅と氷砂糖が分量通り入ったセット。そして、梅ジュースを入れる大きな瓶。

作り方の紙を見ながら、息子の梅ジュース作りが始まった。

まずは、梅を水で洗って拭き、それからへたをとっていく。

かなりの数だけど、一つ一つ丁寧に。

普段からこんな根気が勉強でも発揮されるといいんだけれど。

梅の匂いが、キッチンに充満する。

作業をしながらも、ときどき匂いを嗅いで、悦に入る息子。

料理をしているというより、大好きな梅にふれているだけでも楽しい、といった様子。

下処理が終わると、梅・氷砂糖を大きな瓶に入れる。

敷き詰め方は、梅・氷を交互にいれてゆく。

この層を2段にするか3段にするか迷う息子。

よりきちんと浸透して欲しいということで、結局3段にしていた。

これで完了。なんだ簡単。子供でもできる。

後は、冷暗所で保存して、出来上がるのを待つ。

息子は瓶を自分の部屋に持って行き、それから毎日、梅の観察が始まった。

少しずつ梅の色が変わっていき、しわしわになっていく。

その様子を写真に撮って、日々の変化を実感する。

ちょっと早目の、夏休みの理科の宿題をしているようだった。

そうやって変化を楽しみながら、出来上がるのを待つ。

作る喜び。待つ楽しみ。

梅ジュースは飲んでおいしいだけではなく、こういう楽しみもついてくる。

首をなが~くして待つこと、三週間。

もうそろそろいいだろうということで、ついに梅ジュースを飲む時が来た。

この日のために、炭酸水を買っておいた。

金曜日、習い事を終えて夜遅く帰ってから、一週間お疲れ様の意味を込めて飲むと決めていた。

息子の部屋から梅ジュースの瓶をキッチンへ持ってくる。

作った時は青々していた梅が、今はもうしわしわになっている。

後でまだ食べれそうなものを、かじる楽しみにとっておく。

ジュースは色がすっかり黄色くなっている。

アクを丁寧にすくい、瓶からポットに移して、入れやすくする。

グラスに梅ジュースの原液と・氷・炭酸水をそそいで、出来上がり。

待ちに待った瞬間。

「乾杯!」

親子でグラスを合わせて、一口飲む。

美味しい!

スッキリとしたさわやかな味で、でも濃厚な甘さもある。

炭酸水で割った梅ジュースは、アルコール分は入っていないけれど、梅サワーを飲んでいる感覚に近い。

とろけるような顔をして味わっている息子。

自分で飲みたいものを作って飲むという達成感。

きっと将来、お酒が飲める年齢になったら、今度は梅酒を作り出すんだろうな。

息子の作った梅ジュースを飲みながら、母が作ってくれた梅ジュースの味を思い出した。

私の母も、この季節になると毎年、梅酒と梅ジュースを作っていた。

他にもぬか漬けはもちろん、自家製の味噌を作ったりして、手のこんだことが好きな専業主婦の鏡のような人だった。

あまりに母が完璧すぎて、手を出すスキがなく、料理をあまりしないまま育った私。

母がしてくれたことがどれほど大変だったか、結婚してから思い知ったけれど、日々の料理を作るのに精一杯で、それ以上のことをやってみる気にはならなかった。

あまり料理を教えてもらうことなく、母は亡くなった。

上の娘を妊娠中の時だったので、当然下の息子は、おばあちゃんに会うことも、おばあちゃんの梅ジュースを飲むことも、叶わなかった。

でも、隔世遺伝で伝わった性分が、今、彼を梅ジュース作りに向かわせている。

私が勧めたわけではない。自分から言い出したこと。

血はつながっているんだと、しみじみ思った。

梅に氷砂糖が染みこむ。

シワシワになって、エキスがしみ出していく。

買ってきたジュースとは明らかに違う、手作りの味。

こういうものを飲んで育ったんだと、今更ながらに思う。

母が生きている時には、当たり前すぎて、いつもの日常すぎて、気付かなかった、初夏の風景。私の家の味。

そういうものを、私も子供たちに残していきたいなと、ふと思った。

毎日作らなければならない料理。苦手な私には、苦痛に思う時が多い。

ただ、それは「やらなければならない家事」というだけではなく、「子供たちの体を作る食事を用意する」という大事な仕事。

そして同時に「大人になってふと思い出す懐かしい味」を作っているのかもしれない。

特別なものはできないけれど、「よくこんなの食べてたな」と思い出す味があれば、きっとそれが、いつか子供たちの力になる。

梅の味は、母の味。

その甘酸っぱさは、忘れていた母との記憶を呼び起こし、そして今、次に受け継がれてゆく味となった。

この記事を書いたママ

りぃ

中2娘と小6息子の母です。成長した子供と友達のように話せる今は人生の黄金期!大変な幼児期を乗り越えたからこそ見えることをお伝えしていきます。

トップ画像出典: topicks.jp

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